教授挨拶

下りのエレベーター

私たちの人生は下りのエレベーターに乗って登ろうとしているようなものだという話を聞いて、はっとしました。現状に満足すれば、必ず後退する。常に、上昇、変化、進歩を求めなれば下に流されてしまう。私たちの携わる医学・医療には特によく当てはまる話です。

私が学生の時にCD4/8などが出てきて、CDナンバーはこれからどんどん増えて行くと講義で聴いて、大変なことになった、覚え切れないと思いました。そんな初な話も昔のこと。mib、mabという名のつく分子標的薬、生物学的製剤など次々と登場していて、覚え切れないどころか、発音からして難しい。たくさんのメタセシスが生じる。こういう新しい薬、新しい機序、その他何事においても、「新しい」からこそ、取り入れる、取り組む、という姿勢が必要だと思います。

これは個人の問題だけでなく、鹿児島大学小児科という組織にも当てはまります。組織として常に先へ進む、新しいレベルを目指すという営みを続けなければ、衰退してしまいます。組織としての投資・挑戦が常に必要です。

問題は、組織の発展と個人の発展のバランスをいかに取るか?ということです。個人の発展なくしては、組織の発展はありません。同時に、組織の発展のために個人を犠牲にすることはできるだけ避けたい。one for all, all for oneとは言いますが、簡単ではありません。私たち小児科の仕事が時間的に、場所的に、種類的に広範囲にわたるので、個人が何をしているのか見通しにくいことが原因だと思います。だとすれば、見通しやすい組織を作り、個人と組織の現在位置と方向性を示すことが必要です。

個人、組織ともに発展し、私たちの目標である for the children, society and ourselvesを実現させたいと考えます。

2023/4/1


No struggle, no progress

大学の活動の三本柱は、診療、教育、研究ですが、そのいずれにおいても困難さがつきまといます。

そもそも病気になるということの辛さ。医療者の側からいえば、なかなか診断がつかない困難さ、診断はついたけれどなかなか良くならない困難さ。そういう困難さに正面から取り組んで、克服していくのが私たちの仕事です。

どういうわけか、私はstruggleという言葉が昔から好きでした。「普通にやっていては普通にしかならない」と昔、恩師に言われました。実験計画を検討していると、「そんなめんどくさいことはきっと誰もやらないから、やった方がいい」とも言われました。その時、そうか、やはりstruggleするしかないんだと思いました。それ以降、何か辛いこと、困難なことがあると、progressするためにstruggleしているんだと思うようになりました。これは自分に対する慰めであるかも知れないし、励ましであるかも知れません。

1990年頃の話だと思いますが、Apple Macintoshと携帯型のプリンターを担いで学会に行った先輩の話を聞きました。よくもまあそんなことをするもんだと思いましたが、「鉄アレイを振り回して筋トレするつもりがあるなら、マッキントッシュを担いで行くぐらい簡単なことだ」と豪語していました。Struggleの仕方にもいろいろあるものです。

困難さは、ストレスやプレッシャーとも言えるかもしれません。ストレスやプレッシャーというものはできることならば避けたいものですが、一方で、ストレスやプレッシャーによって物事が進行するというのも事実です。教育や研究において、程よいストレスと程よいプレッシャーを与えて、それを乗り越えてゆける「たくましい」人を育てることが私の大切な仕事だと考えています。

2022/4/1


私たち小児科医は病気で困っている人の役に立ちたいと思い、医師になることを志し、病気のこどもたちのために小児科医となりました。こどもが病気に苦しんでいることを、とても理不尽なことだと感じ、この理不尽と闘うために、日夜、診療、研究、そして教育に取り組んでいます。

鹿児島大学病院は鹿児島県で唯一の大学病院です。鹿児島大学小児科には、血液疾患、小児がん、免疫異常、循環器疾患、膠原病、腎疾患、神経疾患、内分泌疾患、アレルギー疾患、新生児などの専門家がいます。より高度な医療を必要とするこどもの診療を24時間体制で担っています。さらに幅広い疾患・病態にも対応する必要があるため、関連する医療機関と協力しています。

私たちのモットーは、For the Children, Society, and Ourselvesです。

For the Children: こどもが一番であるという点からブレません。診断のための検査、治療の選択が本当にこどもたちのためになっているのかを常に問い続けながら診療にあたっています。毎朝、毎夕にチームでカンファレンスを行い、最適の診療について検討しています。エビデンスに基づいた診療を行うのは当然ですが、エビデンスのないものには、エビデンスを作りだすことを常に意識し、臨床現場から生じる疑問に答えていこうと心がけています。

For Society: 闘病中のこどもには、さまざまな困難があります。また、病気と付き合っていかなければならない場合もあります。元の病気が治った後でも、合併症という新しい病気を患うこともあります。私たちは、こどもが家庭、学校、社会の中で本来あるべき姿でいられるように、あるいは本来あるべき姿に戻ることができるように、闘病が始まった時点から家族、教育関係機関、行政と協力していきます。このように地域や社会と協同し、医療の成果を社会に還すことが私たちの仕事であると考えています。

For Ourselves: 最後に、医療者である私たち自身が充足し、幸せであることも大切であると考えています。物事を前向きに考え、bright sideを見る力を磨いていきたいと考えています。

2021/4/1